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リポート(1) 香港で買うオーガニック中国茶

リポート(1)

香港で買うオーガニック中国茶

 いまや、汚染に偽装と「食」の安全や信頼はあてにならないもの、というのが常識になってしまいました。一般的な日本人は中国の食品は頭から疑ってかかる一方、日本の食品は安心と思い込んでいた(あるいは、まだ「思い込んでいる」)かもしれません。したがって、中国で何か起こると「やっぱりね」と素直に納得する反面、日本で同様なことが起こると「えっ、嘘っ、信じられない」と裏切られた気持ちになります。落差が激しい分、衝撃も大きいわけです。元も子もない言い方をすれば、日本の食品(それ以外のものも)が安全で信頼できるなど、しょせん「幻想」に過ぎなかっただけの話。「幻想」ゆえ、一旦ほころびはじめれば、一気に「崩壊」もするでしょう。

 もちろん、確かに日本と中国では程度の差はあります。なにしろ中国のほうが面積も広ければ人口も多いうえに、法も整備されていないし、意識も高くないのですから。中国の某国内紙(電子版)で、「赤い色の液体に浸しただけで巨大化するブドウの栽培」という恐怖の追跡リポートを読んだことがあります(ありえない大きさのブドウは、見れば変だなとわかりますが)。

 ただ、香港という外から見た場合、日本も中国も「危険」ということでは変わらない、と感じられてしまいます。中国の乳製品に気をつけていたら、日本の米製品(そもそも日本政府は、なぜ検査もせずに劇薬まみれの米を買うの? なぜ食料自給率が4割しかないのにずさんな管理で米に黴を生えさせるなど食べ物を粗末にするの? なぜ食べられない工業用の米なのに食品会社に売るの?)を掴まされてしまった、とか……。

 このような状況では、中国茶も怪しい、と思われるのは当然のこと。そこで、香港の茶舗で売られているオーガニック中国茶にはどんなものがあるか、調べてみました。もっとも、産地まで足を運んだわけではなく、あくまでも茶舗がオーガニックと謳って販売している商品に限った点を、お断りしておきます。また、オーガニックの法的な定義が各国・地域によって異なる点も留意ください。さらに、日本茶や紅茶がすべてオーガニックというわけではないのと同様、中国茶がすべてオーガニックでなければいけないというわけではない点も、見落としませんように。

◆雅博緑茶(がはくりょくちゃ)=緑茶 HK$168/100g 産地:江西・婺源県

 店名:雅博茶坊 住所:九龍旺角亜皆老街120號C 電話:(852) 2713-7936

 同店の葉恵民氏はこれまで「1万人による茶会」や「チョモランマでお点前」といったユニークなイベントを数多く催したり、香港の上水に茶園を設けて茶樹の育成を試みたりしてきた人物です。近年では江西省の婺源県にある風光明媚な自然保護区内に「善心茶人山荘」なる桃源郷のようなものをつくり、お茶を中心とした文化・芸術・保養の拠点にしなんとしています。

 婺源は古くからお茶の産地として知られ、現在ではお茶をはじめ、野菜、果物、各種食品まで、オーガニックでの生産に力を入れているようです。そこで採れるお茶を「雅博緑茶」として販売しているのです。パッケージにオーガニックの表示はないものの、オーガニックである旨を教えてくれます。

◆生態緑茶(せいたいりょくちゃ)=緑茶 HK$160/100g 産地:四川

 生態紅茶(せいたいこうちゃ)=紅茶 HK$120/100g 産地:福建

 店名:茶藝樂園 住所:九龍尖沙咀彌敦道36號 重慶站購物商城2樓136A-B舗 電話:(852) 2311-7270

 尖沙咀支店が08年9月から現在の場所に移転しました。さすがに香港一の品揃えを誇る同店だけあり、オーガニックのものも緑茶と紅茶の2種類を置いています。ただし、毎年新茶があるとは限らないようです。

 さて、この場合の「生態」とはいったいなんのことでしょうか。本来「パンダの生態」という使い方をする言葉です。最近では環境用語として、ときに「エコ(エコロジー)」の意味で使い(たとえば「生態旅游」は「エコツアー」、「生態商務」は「エコビジネス」など)、ときに「有機」つまり「オーガニック」の意味で使います(元々「生態」は英語で「ecology」ですが)。「生態食品」といえば、ずばり「有機食品」「自然食品」のことです。

◆金桂冠(きんけいかん)=青茶 HK$100/50g 産地:福建・安渓県

 碧玉観音(へきぎょくかんのん)=青茶 HK$100/50g 産地:福建・安渓県

 紅玉観音(こうぎょくかんのん)=青茶 HK$50/50g 産地:福建・安渓県

 店名:三思堂 住所:香港銅鑼灣謝斐道506號 聯成商業中心1101室 電話:(852) 2892-2463

 金桂冠は烏龍種に鉄観音種を接ぎ木した珍しいお茶です。現地の農家と共同でつくった同店のオリジナルです。香港の検査機関である香港標準及検定中心(センター)により、農薬検査の結果、安全が確認されています。

 碧玉観音と紅玉観音も農家に依頼して新たに畑を起こすことから始めてつくった同店のオリジナルです。こちらのふたつはわざわざ日本の検査機関、食環境衛生研究所に検査を依頼しており、厚生労働省通知の試験法に準ずる分析方式で168項目に及ぶ残留農薬一斉分析を行ない、「全項目検出されませんでした」とのお墨付きを得ています。

 いずれのお茶もパッケージに検査結果報告書(分析結果一覧を含む)のコピーが入っています。

◆有機白牡丹(ゆうきはくぼたん)=白茶 HK$60/100g 産地:福建

 台湾有機烏龍(たいわんゆうきうーろん)=青茶 HK$80/100g 産地:台湾・鹿谷郷

 店名:林奇苑 住所:香港上環文咸東街105-106號 電話:(852) 2543-7154

 同店のような老舗といえどもトレンドには敏感で、白牡丹と台湾烏龍にオーガニックのものを置いています。

 前者はお茶摘みのあと萎凋(しなびさせること)、殺青(加熱すること)、乾燥だけと、つくり方がシンプルゆえに農薬を使うと残留しやすいお茶です。

 後者は近年になって台湾でも食の安全に対する意識が高まるに連れ、オーガニックのものが増えてきていることから生まれたひとつです。かつ、焙煎も従来より強めにする傾向があり(というか、伝統的なつくり方に回帰している、といったほうがよいかもしれません)、このお茶もいくらか中程度に近い焙煎になっています。

 ちなみに、鹿谷郷は台湾の中部山岳地帯、南投県にあり、凍頂烏龍など多くの銘茶を産するお茶どころです。

 ※以上、九龍サイド、香港サイドの順で、店名の「あいうえお」順。

 さて、最後にもう一言。中国茶とひとからげにしないことです。本当に上等、上質でよいお茶はあえていわなくてもオーガニックが当たり前。農薬や化学肥料を使ってしまっては、ものによっては数百年間もその土地で育まれ続けたことで生まれた、そのお茶ならではの味や香りが出ませんから。

 毒入り餃子(これは明らかに危険)事件のあと、日本の報道で「中国茶も危ない」と騒ぎを煽り、残留農薬が基準値の何十倍の濃度で検出された、と書き立てる記事もありましたが、いったいどのランク、どのレベルの茶葉を検査したのか知りたいものです。意図的に(あるいはたんに無知からか)最低、最悪の茶葉を選んで検査したのではと勘ぐってしまいます。

 危険な茶葉があることは紛れもない事実です。しかし、すべてが危ないわけではありません。ひとからげにせずに、ひとつずつ吟味することです。

 では、美味しく楽しく喫みましょう。

中國茶倶樂部「龜僊人窟」主人 池谷直人